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伯林研究所:Virtuelles Institut für Umwelt, Menschen und Energie in Berlin

◎  ベルリン住民投票の結果の雑感1 

再エネをめぐる住民投票の結果

2013年11月3日、ドイツの首都ベルリンで住民投票が行われました。
「民主的で環境にやさしい、公正なエネルギー供給に係る政令案の是非」についての投票です。

わかりやすく言うと、「再生可能エネルギーを推進するための政令」案を市民団体が作り、これを政令化するかの是非を問う住民投票が11月3日に行われたというわけです。

この政令案が実現するための条件は2つ:
①投票の過半数を得ること
②(投票しない人も含む)全有権者の1/4以上の賛成

http://www.morgenpost.de/bin/volks001-121502936.jpeg
Morgenpostより

投票率は29.1%、賛成が83%で①は満たしたのですが、賛成が全有権者の24.1%と0.9%足りず、②の条件が満たされなかったため成立には至りませんでした。ハンブルクでは51%の賛成多数で同様の政令が可決したので、ベルリンは逆の結果となってしまいました。

ハンブルグでは総選挙と同日に実施したために多くの人が投票した結果①が争点になったのに対し、ベルリンでは投票日が別々に設定されたため、②が争点になりました。なので、83%の賛成はすごい数ですがベルリン全市民の83%が賛成しているというのは無理があります。むしろ反対派は投票を棄権したと考えるべきでしょう。また、70%の人が投票に行かなかった点を考えると、この住民投票はあまり注目を集めなかったといえるかもしれません。

ベルリン市民は再エネが嫌いなのか

では、この結果から「ベルリン市民は再エネに反対、もしくは興味が無い」と結論づけていいのかといえば、そこは立ち止まって考える必要があります。

結論から言えば、ベルリン市と市民が再エネを重視していることは間違いなく、脱原発・再エネ推進の方向性は、この政令が可決されなくても変わりません。

ベルリン市は以前より気候変動対策に積極的に取り組んでおり、その分野では優等生とも言われています(一人あたりのCO2排出量が6tほど)。
今後もベルリン市政として再エネ100%に向けた取り組みを続けていくことは住民にとっては自明のことであり、今回の住民投票は再エネの是非を問うものではなく、100%再エネに向けた取り組み方についての投票だったといえると思います。

今回の住民投票では、ベルリン市は政令に反対の立場をとりました。
ベルリン行政と与党であるCDU(中道右派)とSPD(中道左派)が政令案に反対し、再エネ推進派の仲違いが起きてしまったのです。

配電網を市民の手に取り戻す?

どうしてこんなややこしいことになったかを説明する前に、まず、今回の住民投票が可決していれば何が変わっていたのかについて、知ることが大事かと思います。

最大の変化は、可決していれば

配電網の所有権を市民が所有する会社に譲渡する(市民の手に配電を取り戻す)

ことになっていたところです。

ドイツでは、電力市場は、発電、送電、配電の3つに分かれており、このうち完全に自由化されているのは発電市場です。
風車や太陽光発電で儲かる固定価格買取制度(通称FIT)は、この発電市場で再エネを支援する制度です。
続いて送電市場は、高圧電力を長距離輸送するための送電網を運営する市場です。ドイツでは、国内を4つの地域にわけて、それぞれの高圧送電線の運営を委託しています。

そして、最後に今回争点となった配電網です。配電網はより電圧の低い電線で、通常は地域で電気を配る役割を果たしています。高圧送電線から我が家のコンセントまでをつなぐのが仕事です。
ドイツでは、送電網と配電網は自由市場ではありません。配電網については入札制度をとっている地域があります。何十年か期間を設けてその間の運営をすべて委託してしまう仕組みです(価格は総括原価方式で決まります)。それ以外の地域では公社と呼ばれる市が所有する公営企業が運営している場合が多くなっています。
ベルリンでは、20年間の配電網の所有権を入札にかけ、競り勝った企業が運営を行うことになっており、2014年末まではVattenfallというスウェーデン資本の会社が運営しています。

2015年以降の配電網の所有権を入札にかけずに市民会社に売ってしまうおうとするアイデアが今回の政令で一番大きな論点となっていわけです。

この一連の活動を推し進め、政令案を起草したのが市民団体「市民エネルギーベルリン(BürgerEnergie Berlin)」です。
BEBは市民団体で企業でありませんが、今回の政令が可決した際には市民会社を設立する際の中心的な役割を果たすことになるはずでした。

新しい配電会社のアイデアはざっくり言えば
1.ベルリン市内の配電網を流れる電力を長期的に100%再エネにする
2.収益は省エネなどの環境に貢献する活動への投資に回す
3.配電会社の配当は、市民が受け取る
4.配電会社の取締役には、市民から選ばれた人間も参画する
の4点です。
この4点セットで「民主的で」「環境にやさしい」「公正な」電力を達成しようとする試みでした。

現在の配電会社であるVattenfallは外資ですし国際企業なので、その売上はベルリンに留まることなく地域外へと流れていきます。Vattenfallは発電会社としては原発や石炭火力発電も持っているので、ひょっとするとベルリンの配電網運営でえた資金を原発に回すかもしれません、さらに民間企業なので、経営理念に対してベルリン市民が影響力を持つこともできません。つまり、まったくもって「民主的ではなく」「環境を破壊し」「公正でない」のが今の状態だ、というのがBEBの主張です。

言いたいことはわかりやすく、また賛成しやすいものだと思いますが、住民投票ではBEBが負けてしまったのです。
では、ベルリン市民はBEBではなくVattenfallを選んだのでしょうか?

実はそれも正確ではありません。
我が家に郵送されてきた住民投票の意見書を読むと、この住民投票の勝者は実はBEBでもVattenfallでもなくベルリン市であったことがわかってきます。

EBE Title
市民エネルギーベルリンウェブサイト

勝者は誰だ?

ベルリン市民が負けて、ベルリン市が勝ったとはどういうことでしょうか?また、どうしてそれが再エネ否定につながらないのでしょうか?

実は、ベルリン市は新たにベルリン市有の電力会社を設立させることをすでに決めてしまっていたからです。
前のエントリにも書きましたが、ベルリンの配電網は入札にかけられて2015年以降の配電網の所有者が決まります(譲渡されるのは運営権ではなく、所有権です)。
ベルリン市はこの入札に対応するために新たに電力公社を設立させることを決めたため、「市民エネルギーベルリン(BEB)」は、入札の競合者になってしまったのです。

ベルリン市も、市政の根幹に気候変動対策と再エネを置いているため、ベルリン市が入札に勝ったとしても再エネ推進は変わりません(と主張しています)。しかし、大きく異なるのはベルリン行政の意見が通るのか、それとも通らないのかです。
ベルリン市の所有する配電会社であれば、経営取締役会はすべてベルリン市の意図する人間に決まるでしょう(この配電会社はベルリン水道公社の子会社として設立される予定)が、市民会社になれば全員がベルリン市の言うことを聞くとは限りません。
極端な話、BEBの場合には公正な電力を掲げて、支払能力のない貧困層に電力を配り続けることになるやもしれません(もちろんすべての人に電力が行き渡ることは重要ですが、それが財政を圧迫することはベルリン市が望むところではありません)。

ここからはベルリン市(正確にはベルリンの与党も参加する事実連盟という名前の連合)の主張を見てみましょう。

ベルリン市の最も大きな関心事は、財政赤字を大きくしないこと、停電を起こさないようにすることの2点です。
再エネ推進はその上で、気候変動政策の観点からも望ましいものという位置づけですが、BEBほどの急速な再エネ転換はベルリン市にとってはリスクが大きいと見ています。

なぜか?
ベルリン市には100%再エネでまかなえるほどには再エネのポテンシャルがないからです。
ベルリン市はドイツの北に位置し、冬は暗く長い上に、ビルが密集しており、風車を建てる余裕もありません。なので、現実的には再エネ100%は、エコ電力を他地域から買うしかないわけです。

BEBはエネルギー転換にむけて、配電網運営売上を、再エネを他の地域から購入する資金に回すとしていますが、ベルリン市はそれには反対しています。そのための出費が膨大になるからです。高圧線の整備、蓄電の整備など課題は山積みのため、市財政を圧迫しないためにBEBのやり方よりもよりゆっくりした再エネ転換を考えているのです。

ベルリン市としては、ベルリン市が所有する会社にベルリン市の税金を投入すれば、財政負担を軽くできるという考えもあります。税金が市の懐に返ってくればそれを別の用途に使えるということで、事実連盟の主張には産業界も多く賛同しています(商工会議所や不動産業者の連盟など)。

市民よりも市政にお金が流れたほうが助かる人もいるということです。

さらにベルリン市を怒らせたと考えられるのは、BEBが提示した配電網の買取価格でした。
BEBは配電網の価値を非常に低く見積もったため(4億ユーロ)、93年にVattenfallに高値(17億ユーロ)で売り渡したベルリン市としては、BEBが提示した配電網の価値は受け入れがたいものでした(ちなみにVattenfallは現在配電網の価値を2-30億ユーロと見積もっています)。

結果的に事実連盟(ベルリン市)がとった行動は、住民投票が盛り上がらないようにするということでした。

BEBは総選挙と同日に投票日を設定するよう求めましたが、ベルリン市はあえて投票日をずらしました。南ドイツでは連休でもあり、ベルリン市民には実家に帰った人もいたでしょう。さらには総選挙と投票日の間に滑りこみ的に市有会社の設立を決議する必要もあったとか。

つまり、極力発言せず、あえて再エネの急速な推進は無理だということすら言わず、事実連盟のウェブサイトもかなり簡素な作りにしてとことんまで議論しないことにしたようです。

唯一目立った活動は投票数日前に「ベルリンの配電網を市民の手に渡すリスク」を訴える記事をいくつかの新聞に掲載させたことでしょう(もちろん自分たちでは言いませんが、記事に手が入っていた可能性は高いと思います)。

住民投票について投票用紙と一緒に配布された注意書きを読みましたが、そこにはBEB、ベルリン市、ベルリン議会の意見が簡潔に述べられており、ベルリン市とベルリン議会はVattenfallには触れず、BEBの案がいかに停電リスクを高めるか、電力価格にはなんの影響もないこと(市民が配電網を所有しても電力価格は下がらない)を主張していました。結果的には1対2になっており、これだけ見ればBEBが不利だなという印象を受けました。

議論好きなドイツ人ですから、議論できないテーマについてはいまいち反応が薄いというわけです。

結局ベルリン市が勝った

では、BEBに槍玉に挙げられたVattenfallはというと、こちらもおとなしいものでした。いくつかのプレイベントに出席しているのは見かけましたが、欠席したものもあり、こちらもあえてBEBを否定せずに波風は立てずに過ごすことを決めたように感じられます(あくまで印象だけど)。

住民投票が否決されれば、配電網の所有権譲渡は通常の入札手続きに回るため、Vattenfallにとっては都合がいいということで、ベルリン市とVattenfallは「住民投票を盛り下げるために」まさかのタッグを組んだわけです。

その結果、投票率は非常に悪く、配電網を市民にとりもどす住民運動は負けてしまいました。

これで、BEBが2015年から配電網を手に入れることはかなり難しくなりました。
しかし、これは再エネを否定するわけではありません。まったく事前情報無しに投票用注意書きだけ読めば、まるでBEBとベルリン市の戦い(Vattenfallは全くの蚊帳の外)の印象を受けたでしょう。
どちらも再エネ推進には違わないなら停電リスクの低い手を選ぼう、という市民がいたことは十分に想像できます。さらにベルリン市はBEBの手続きの違法性を訴えており、これは法律の是非はともかく説得力のある主張だったと思います(配電網市場含む電力市場は、EUの規定で無差別で公正な手続きに乗っとておらねばならず、BEBのやり方はEUの規定に反するおそれがあるという主張)。

BEBは予想以上に頑張ったと言えるでしょう。発電設備ではなく配電網を手に入れることでエネルギー転換を加速できるといった主張は、おそらく多くの人には目新しいものではなかったかと思います。しかし、今回革新的な転換を手に入れるまでには至りませんでした。

個人的にはBEBのアイデアは非常に面白く、現実味もあったと思います。一般市民を動かすまでには至らなかったものの、60万に近い票を集めたことは大きな成果だと思います。
おしむらくは、日程が悪かったということでしょう。

ドイツ経済も先行き不透明で再エネによる電気料金高騰が叫ばれる中(それが事実かは置いておいて)、売上を再エネに再投資するという考えは一般市民の心を捉えなかったのかもしれません。

先の総選挙で圧勝したCDUが反対に回っていたのも大きいでしょう。逆に言えば選挙で負けた政党(緑など)が応援していることがマイナスに働いた可能性もあります。

市民エネルギーベルリンはどうするべきか?

1つだけ苦言を呈するとすれば、BEBが提示した政令案は非常に読みづらいものでした。これだけでは、BEBが何を考えているのかわかりづらく、BEBとベルリン市の主張ではベルリン市に分があるようにさえ感じられました。

もちろん法的な文書は読みづらいものですが、市民エネルギーを掲げるなら、政令案ももう少しわかりやすい構成があったのではないかと思います。

しかし、結局のところ、運がなかったとしか言いようが無いでしょう。
ある政策や法律が通過するかしないかには、結局のところ時期が適切かどうかが大事になります。
「政治の窓」と言いますが、ある政策が議論を通過するには、政治の窓が開いた瞬間を逃さずに活かす必要があり、BEBはその点で運がなかったといえるでしょう。

今回は政局がBEBに味方しなかったのだと思います。身もふたもないと言えばそうですが、逆に言えば時期を待てば必ず勝機はあると思います。

2015年を逃すとベルリンでは2035年が次回のチャンスということになりますが、ベルリン以外でも同じ行動が盛り上がっていくことでしょう。その時にはBEBは自己の経験をもとにかなりの手助けができると思います。

ベルリン市では今後は、市と民間が配電網をめぐって争っていくことになると思います。
BEBの起死回生の一発はBEBが入札に参加することですが、これには法律という壁が待っています。

しかし、エネルギーの自治化の可能性はまだ死んでわけではありません。
BEBは市民にとって最も良い手段を新たに模索していくことになります。市に協力するのか、独自路線を進むのか、別に発電会社をおこすのか、あらゆる可能性が開けています。

市民も今後も変わらずにBEBを応援し、エネルギーを市民の手に取り戻してほしいと思います。
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