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伯林研究所:Virtuelles Institut für Umwelt, Menschen und Energie in Berlin

◎  ベルリン住民投票の結果の雑感1 

再エネをめぐる住民投票の結果

2013年11月3日、ドイツの首都ベルリンで住民投票が行われました。
「民主的で環境にやさしい、公正なエネルギー供給に係る政令案の是非」についての投票です。

わかりやすく言うと、「再生可能エネルギーを推進するための政令」案を市民団体が作り、これを政令化するかの是非を問う住民投票が11月3日に行われたというわけです。

この政令案が実現するための条件は2つ:
①投票の過半数を得ること
②(投票しない人も含む)全有権者の1/4以上の賛成

http://www.morgenpost.de/bin/volks001-121502936.jpeg
Morgenpostより

投票率は29.1%、賛成が83%で①は満たしたのですが、賛成が全有権者の24.1%と0.9%足りず、②の条件が満たされなかったため成立には至りませんでした。ハンブルクでは51%の賛成多数で同様の政令が可決したので、ベルリンは逆の結果となってしまいました。

ハンブルグでは総選挙と同日に実施したために多くの人が投票した結果①が争点になったのに対し、ベルリンでは投票日が別々に設定されたため、②が争点になりました。なので、83%の賛成はすごい数ですがベルリン全市民の83%が賛成しているというのは無理があります。むしろ反対派は投票を棄権したと考えるべきでしょう。また、70%の人が投票に行かなかった点を考えると、この住民投票はあまり注目を集めなかったといえるかもしれません。

ベルリン市民は再エネが嫌いなのか

では、この結果から「ベルリン市民は再エネに反対、もしくは興味が無い」と結論づけていいのかといえば、そこは立ち止まって考える必要があります。

結論から言えば、ベルリン市と市民が再エネを重視していることは間違いなく、脱原発・再エネ推進の方向性は、この政令が可決されなくても変わりません。

ベルリン市は以前より気候変動対策に積極的に取り組んでおり、その分野では優等生とも言われています(一人あたりのCO2排出量が6tほど)。
今後もベルリン市政として再エネ100%に向けた取り組みを続けていくことは住民にとっては自明のことであり、今回の住民投票は再エネの是非を問うものではなく、100%再エネに向けた取り組み方についての投票だったといえると思います。

今回の住民投票では、ベルリン市は政令に反対の立場をとりました。
ベルリン行政と与党であるCDU(中道右派)とSPD(中道左派)が政令案に反対し、再エネ推進派の仲違いが起きてしまったのです。

配電網を市民の手に取り戻す?

どうしてこんなややこしいことになったかを説明する前に、まず、今回の住民投票が可決していれば何が変わっていたのかについて、知ることが大事かと思います。

最大の変化は、可決していれば

配電網の所有権を市民が所有する会社に譲渡する(市民の手に配電を取り戻す)

ことになっていたところです。

ドイツでは、電力市場は、発電、送電、配電の3つに分かれており、このうち完全に自由化されているのは発電市場です。
風車や太陽光発電で儲かる固定価格買取制度(通称FIT)は、この発電市場で再エネを支援する制度です。
続いて送電市場は、高圧電力を長距離輸送するための送電網を運営する市場です。ドイツでは、国内を4つの地域にわけて、それぞれの高圧送電線の運営を委託しています。

そして、最後に今回争点となった配電網です。配電網はより電圧の低い電線で、通常は地域で電気を配る役割を果たしています。高圧送電線から我が家のコンセントまでをつなぐのが仕事です。
ドイツでは、送電網と配電網は自由市場ではありません。配電網については入札制度をとっている地域があります。何十年か期間を設けてその間の運営をすべて委託してしまう仕組みです(価格は総括原価方式で決まります)。それ以外の地域では公社と呼ばれる市が所有する公営企業が運営している場合が多くなっています。
ベルリンでは、20年間の配電網の所有権を入札にかけ、競り勝った企業が運営を行うことになっており、2014年末まではVattenfallというスウェーデン資本の会社が運営しています。

2015年以降の配電網の所有権を入札にかけずに市民会社に売ってしまうおうとするアイデアが今回の政令で一番大きな論点となっていわけです。

この一連の活動を推し進め、政令案を起草したのが市民団体「市民エネルギーベルリン(BürgerEnergie Berlin)」です。
BEBは市民団体で企業でありませんが、今回の政令が可決した際には市民会社を設立する際の中心的な役割を果たすことになるはずでした。

新しい配電会社のアイデアはざっくり言えば
1.ベルリン市内の配電網を流れる電力を長期的に100%再エネにする
2.収益は省エネなどの環境に貢献する活動への投資に回す
3.配電会社の配当は、市民が受け取る
4.配電会社の取締役には、市民から選ばれた人間も参画する
の4点です。
この4点セットで「民主的で」「環境にやさしい」「公正な」電力を達成しようとする試みでした。

現在の配電会社であるVattenfallは外資ですし国際企業なので、その売上はベルリンに留まることなく地域外へと流れていきます。Vattenfallは発電会社としては原発や石炭火力発電も持っているので、ひょっとするとベルリンの配電網運営でえた資金を原発に回すかもしれません、さらに民間企業なので、経営理念に対してベルリン市民が影響力を持つこともできません。つまり、まったくもって「民主的ではなく」「環境を破壊し」「公正でない」のが今の状態だ、というのがBEBの主張です。

言いたいことはわかりやすく、また賛成しやすいものだと思いますが、住民投票ではBEBが負けてしまったのです。
では、ベルリン市民はBEBではなくVattenfallを選んだのでしょうか?

実はそれも正確ではありません。
我が家に郵送されてきた住民投票の意見書を読むと、この住民投票の勝者は実はBEBでもVattenfallでもなくベルリン市であったことがわかってきます。

EBE Title
市民エネルギーベルリンウェブサイト

勝者は誰だ?

ベルリン市民が負けて、ベルリン市が勝ったとはどういうことでしょうか?また、どうしてそれが再エネ否定につながらないのでしょうか?

実は、ベルリン市は新たにベルリン市有の電力会社を設立させることをすでに決めてしまっていたからです。
前のエントリにも書きましたが、ベルリンの配電網は入札にかけられて2015年以降の配電網の所有者が決まります(譲渡されるのは運営権ではなく、所有権です)。
ベルリン市はこの入札に対応するために新たに電力公社を設立させることを決めたため、「市民エネルギーベルリン(BEB)」は、入札の競合者になってしまったのです。

ベルリン市も、市政の根幹に気候変動対策と再エネを置いているため、ベルリン市が入札に勝ったとしても再エネ推進は変わりません(と主張しています)。しかし、大きく異なるのはベルリン行政の意見が通るのか、それとも通らないのかです。
ベルリン市の所有する配電会社であれば、経営取締役会はすべてベルリン市の意図する人間に決まるでしょう(この配電会社はベルリン水道公社の子会社として設立される予定)が、市民会社になれば全員がベルリン市の言うことを聞くとは限りません。
極端な話、BEBの場合には公正な電力を掲げて、支払能力のない貧困層に電力を配り続けることになるやもしれません(もちろんすべての人に電力が行き渡ることは重要ですが、それが財政を圧迫することはベルリン市が望むところではありません)。

ここからはベルリン市(正確にはベルリンの与党も参加する事実連盟という名前の連合)の主張を見てみましょう。

ベルリン市の最も大きな関心事は、財政赤字を大きくしないこと、停電を起こさないようにすることの2点です。
再エネ推進はその上で、気候変動政策の観点からも望ましいものという位置づけですが、BEBほどの急速な再エネ転換はベルリン市にとってはリスクが大きいと見ています。

なぜか?
ベルリン市には100%再エネでまかなえるほどには再エネのポテンシャルがないからです。
ベルリン市はドイツの北に位置し、冬は暗く長い上に、ビルが密集しており、風車を建てる余裕もありません。なので、現実的には再エネ100%は、エコ電力を他地域から買うしかないわけです。

BEBはエネルギー転換にむけて、配電網運営売上を、再エネを他の地域から購入する資金に回すとしていますが、ベルリン市はそれには反対しています。そのための出費が膨大になるからです。高圧線の整備、蓄電の整備など課題は山積みのため、市財政を圧迫しないためにBEBのやり方よりもよりゆっくりした再エネ転換を考えているのです。

ベルリン市としては、ベルリン市が所有する会社にベルリン市の税金を投入すれば、財政負担を軽くできるという考えもあります。税金が市の懐に返ってくればそれを別の用途に使えるということで、事実連盟の主張には産業界も多く賛同しています(商工会議所や不動産業者の連盟など)。

市民よりも市政にお金が流れたほうが助かる人もいるということです。

さらにベルリン市を怒らせたと考えられるのは、BEBが提示した配電網の買取価格でした。
BEBは配電網の価値を非常に低く見積もったため(4億ユーロ)、93年にVattenfallに高値(17億ユーロ)で売り渡したベルリン市としては、BEBが提示した配電網の価値は受け入れがたいものでした(ちなみにVattenfallは現在配電網の価値を2-30億ユーロと見積もっています)。

結果的に事実連盟(ベルリン市)がとった行動は、住民投票が盛り上がらないようにするということでした。

BEBは総選挙と同日に投票日を設定するよう求めましたが、ベルリン市はあえて投票日をずらしました。南ドイツでは連休でもあり、ベルリン市民には実家に帰った人もいたでしょう。さらには総選挙と投票日の間に滑りこみ的に市有会社の設立を決議する必要もあったとか。

つまり、極力発言せず、あえて再エネの急速な推進は無理だということすら言わず、事実連盟のウェブサイトもかなり簡素な作りにしてとことんまで議論しないことにしたようです。

唯一目立った活動は投票数日前に「ベルリンの配電網を市民の手に渡すリスク」を訴える記事をいくつかの新聞に掲載させたことでしょう(もちろん自分たちでは言いませんが、記事に手が入っていた可能性は高いと思います)。

住民投票について投票用紙と一緒に配布された注意書きを読みましたが、そこにはBEB、ベルリン市、ベルリン議会の意見が簡潔に述べられており、ベルリン市とベルリン議会はVattenfallには触れず、BEBの案がいかに停電リスクを高めるか、電力価格にはなんの影響もないこと(市民が配電網を所有しても電力価格は下がらない)を主張していました。結果的には1対2になっており、これだけ見ればBEBが不利だなという印象を受けました。

議論好きなドイツ人ですから、議論できないテーマについてはいまいち反応が薄いというわけです。

結局ベルリン市が勝った

では、BEBに槍玉に挙げられたVattenfallはというと、こちらもおとなしいものでした。いくつかのプレイベントに出席しているのは見かけましたが、欠席したものもあり、こちらもあえてBEBを否定せずに波風は立てずに過ごすことを決めたように感じられます(あくまで印象だけど)。

住民投票が否決されれば、配電網の所有権譲渡は通常の入札手続きに回るため、Vattenfallにとっては都合がいいということで、ベルリン市とVattenfallは「住民投票を盛り下げるために」まさかのタッグを組んだわけです。

その結果、投票率は非常に悪く、配電網を市民にとりもどす住民運動は負けてしまいました。

これで、BEBが2015年から配電網を手に入れることはかなり難しくなりました。
しかし、これは再エネを否定するわけではありません。まったく事前情報無しに投票用注意書きだけ読めば、まるでBEBとベルリン市の戦い(Vattenfallは全くの蚊帳の外)の印象を受けたでしょう。
どちらも再エネ推進には違わないなら停電リスクの低い手を選ぼう、という市民がいたことは十分に想像できます。さらにベルリン市はBEBの手続きの違法性を訴えており、これは法律の是非はともかく説得力のある主張だったと思います(配電網市場含む電力市場は、EUの規定で無差別で公正な手続きに乗っとておらねばならず、BEBのやり方はEUの規定に反するおそれがあるという主張)。

BEBは予想以上に頑張ったと言えるでしょう。発電設備ではなく配電網を手に入れることでエネルギー転換を加速できるといった主張は、おそらく多くの人には目新しいものではなかったかと思います。しかし、今回革新的な転換を手に入れるまでには至りませんでした。

個人的にはBEBのアイデアは非常に面白く、現実味もあったと思います。一般市民を動かすまでには至らなかったものの、60万に近い票を集めたことは大きな成果だと思います。
おしむらくは、日程が悪かったということでしょう。

ドイツ経済も先行き不透明で再エネによる電気料金高騰が叫ばれる中(それが事実かは置いておいて)、売上を再エネに再投資するという考えは一般市民の心を捉えなかったのかもしれません。

先の総選挙で圧勝したCDUが反対に回っていたのも大きいでしょう。逆に言えば選挙で負けた政党(緑など)が応援していることがマイナスに働いた可能性もあります。

市民エネルギーベルリンはどうするべきか?

1つだけ苦言を呈するとすれば、BEBが提示した政令案は非常に読みづらいものでした。これだけでは、BEBが何を考えているのかわかりづらく、BEBとベルリン市の主張ではベルリン市に分があるようにさえ感じられました。

もちろん法的な文書は読みづらいものですが、市民エネルギーを掲げるなら、政令案ももう少しわかりやすい構成があったのではないかと思います。

しかし、結局のところ、運がなかったとしか言いようが無いでしょう。
ある政策や法律が通過するかしないかには、結局のところ時期が適切かどうかが大事になります。
「政治の窓」と言いますが、ある政策が議論を通過するには、政治の窓が開いた瞬間を逃さずに活かす必要があり、BEBはその点で運がなかったといえるでしょう。

今回は政局がBEBに味方しなかったのだと思います。身もふたもないと言えばそうですが、逆に言えば時期を待てば必ず勝機はあると思います。

2015年を逃すとベルリンでは2035年が次回のチャンスということになりますが、ベルリン以外でも同じ行動が盛り上がっていくことでしょう。その時にはBEBは自己の経験をもとにかなりの手助けができると思います。

ベルリン市では今後は、市と民間が配電網をめぐって争っていくことになると思います。
BEBの起死回生の一発はBEBが入札に参加することですが、これには法律という壁が待っています。

しかし、エネルギーの自治化の可能性はまだ死んでわけではありません。
BEBは市民にとって最も良い手段を新たに模索していくことになります。市に協力するのか、独自路線を進むのか、別に発電会社をおこすのか、あらゆる可能性が開けています。

市民も今後も変わらずにBEBを応援し、エネルギーを市民の手に取り戻してほしいと思います。
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◎  電力価格のトリック、ZDF Zoom、2013年9月18日 

ZDF Zoomというドキュメンタリーで2013年9月18日に放送していた

「電力価格のトリック」

これがとても興味深かったので、番組紹介のウェブサイトから少し翻訳してみます。

Preistricks beim Strom

電力価格のトリック 誰がエネルギー転換を負担するのか

気候を破壊する石炭や放射性物質を生み出す原子力から太陽や風力といった再生可能エネルギーへ。ドイツは、工業国として最初のエネルギー転換を目指す国である。

しかし、この世紀の取り組みのコストは今なお上がり続けている。統一選挙後も消費者の電気代は高くなる一方だろう、と専門家は言う。このまま根本的な変化が起こらなければ、エネルギー転換の高いコストを支払い続けられる者はいなくなるだろう。Steffen JudzikowskiとHans KobersteinはZDF Zoomの中で問いかける。

なぜ、エネルギー転換のコストは上がり続けるのだろうか?

世界を見渡しても、ドイツのエネルギー転換の手本になる国はない。政治的なコンセンサスはすでに、気候中立性と将来世代を考え、今後もより多くの再生可能エネルギーを生み出していくということで一致している。
しかし、前例のない実験は今、政府による軌道修正がないまま、失敗の危機に直面している。

EEG賦課金(再生可能エネルギー買い取り負担金)とは、電力消費者がエネルギー転換のために支払っている費用である。2008年には一般家庭の平均的な負担額は年40ユーロであった。しかし、2013年には185ユーロになる。
統一選後にはさらに210ユーロになると見られている。

本来であれば、電力消費者はすべて等しくこの費用を負担すべきだ。数少ない例外として、アルミ産業などの大口の電力需要家には、ビジネスを維持するためにも負担の軽減が認められてもも良いだろう。

しかし、政府は長年この負担減の恩恵をより多くの企業へ与える方向で動いてきた。すでに電力消費者の20%は賦課金の支払いを免除されている。この特権をえた企業の数は現在の1900から2014年には2300に増える見込みだ。
大口電力需要家以外にも多くの企業が、この特権を受け続けている。
こうして賦課金を支払う消費者の数は減り続ける。この負担を肩代わりするのはより小さな消費者なのだ。


翻訳はここまで。
これはいわゆる「煽り」なので、これを読んで、「ドイツのエネルギー転換は失敗だった!」と短絡的に判断してはいけません。

確かに、固定価格買取制度の、特に賦課金負担の分配は非常に大きな問題を生み出しています。電気代を支払えない人たちの給電がストップしたという報道も記憶にあたらしいところです。
もちろん、これは大きな問題であり、番組では、消費者が負担する210ユーロのおよそ半分はエネルギー転換以外の目的に利用されていると手厳しく批判しています。

現在、ドイツ企業が賦課金免除の恩恵を受けられる一番の理由は「雇用の確保、競争力の維持」にあります。仕事を生み出す企業が潰れては、電気代どころか生活すらできない人たちが出てくるという言い分です。
これについて、再生可能エネルギー業者は「こういった論理は、旧特権階級が既得権にしがみつく論理だ」と手厳しく批判しています。

番組では賦課金が上昇していく大きな理由として、電力価格の低下を挙げています。
再生可能エネルギーは初期投資が大きいもののランニングコスト(主に燃料調達費)は低いのが特徴で、その普及には初期投資の改修を保証するシステムが必要であり、そのために固定価格買取制度が導入されました。
広く浅い負担によって、将来的に大きな利益を配分することができると考えたわけですが、当初予定よりも再生可能エネルギー発電コストの低下速度が速く、太陽光と風力を中心に爆発的に普及しました。

初期投資は別の誰かが負担し、ランニングコストはかなり安いわけなので、それをセリにかけると電力の取引価格はさがります。ただし、電力は再生可能エネルギーであろうと化石燃料であろうと区別は難しいので、多くの場合にひとまとめで取引されます。当然、安く作って高く売れる再生可能エネルギーは魅力的な選択肢になります。

それでは、初期投資を肩代わりする誰かとは一体だれなのか?それは消費者であり、固定価格買取制度の下で賦課金として徴収されています。

そこに既得権やら雇用確保などの論点が複雑に絡み、広く浅い負担のはずが、いびつで深い負担になっているのです。支払いを逃れた誰かさんの分は他の誰かさんが負担する。結果、消費者が負担する賦課金の半分は本来のエネルギー転換以外のところに流れているということなのです。

これはEEGパラドックスと呼ばれています。制度の成功が(多くの複雑な外部要因と絡まって)制度の失敗の原因となるということです。
この外部要因を取り除くことは簡単ではないし、だからといって固定価格買取制度を失敗だと決め付けるのは短絡的すぎるという気がします。

しかし、再生可能エネルギーの普及が電力市場に与えたインパクトは甚大です。
ドイツではソーラーパネルの会社が生まれては潰れ、大きな混乱を生み出しました。
化石燃料による大規模発電を得意にしてきた大手電力会社も岐路に立たされ、株価は10年前の半分程度になっています。

前例のない実験による、混乱期を迎えるドイツですが、それに回答を出すのは簡単ではないようです。

このドキュメンタリーの優れたところは、それに対してどのように立ち向かうべきか、それに取り組む人たちを紹介していたところです。

キーワードは「ローカル」です。

ドイツは発電市場は自由化されており、だれでも発電し、その電力を販売することが可能です。
固定価格買取制度は発電の初期投資をみんなで分担することで、普及を促し、その恩恵(気候変動防止、将来的に安定した電力価格)を受容するというまことにドイツらしい発想の賜物です。

しかし、再生可能エネルギーはエネルギーとしての密度が低いため、今までの大規模発電、大規模送電システムとの相性が悪く、発電施設だけを整えてもあまり意味がありません。

大型化する風力はある意味旧型の電力市場に再生可能エネルギーを組み込んでいく発想に近いですが、将来的にはより身近で発電した電気を消費するシステムが普及するでしょう。

それにはローカルというアクターが欠かせなくなります。
細かい地名は忘れましたが、ドキュメンタリーではいくつかのローカル発電事業者を紹介しています。

一つが風力発電を手がける小規模発電事業者です。
社員は3人、その一人ひとりが自分が担当するおよそ160人の顧客を覚えているというまさにローカルな発電事業者です。
彼らは発電所の近くの人たちにのみ自社の電力を販売し、電力の地産地消を地で行く取り組みをしています。
そのため、彼らは固定価格買取制度ではなく、マーケットプレミアムという手法を利用しています。
電力の小売価格に一定のプレミアムを上乗せして受け取る仕組みで、価格が変動するものの自分たちで直接電力を販売できるというメリットがあります(固定価格買取制度では、電力は卸売市場で一括して取引されます)。

その結果、顔の見える発電事業者となれるわけです。
また、この発電事業者は十分にフェアな価格を検討した結果、大手電力会社よりも安い価格で電力を販売できるとも言っていました。
余計な部分をそぎ落とし、ローカルに徹すれば、固定価格買取制度を利用しなくても十分競争力のある価格になるということです。

それ以外に太陽風力バイオガスを組み合わせて売電する農家や、メガソーラーを自ら運営する自治体など、あまり目新しいものではなかったのですが、わかりやすい説明と現場の方の顔が見れたことで意味のある番組となっていました。

このエントリーは基本的にドキュメンタリー番組にそっていますが、内容に誤りがあれば、それはもちろん私個人の責任です。間違いがあればご指摘ください。

◎  電力料金値上げ! 

ドイツ電力価格が上がっているという話はニュースでよく見かけます。

電力価格に関する簡単なおさらい

BDEWによると、過去20年ほどで家庭用電力価格が一番安かったのは2000年の13.94Cent/kWhで、その後毎年のように価格は上がり2011年には24.95Cent/kWhまで上がっています。過去10数年で約56%値上がりしたわけです。
これはだいたい月に3500kWhを消費する3人世帯の平均価格です。
ドイツでは電力会社を選べるので平均価格になっています。

title
BDEWウェブサイトより

この価格についての細かい検証などは日本再生可能エネルギー研究所のドイツに見る固定価格買い取り制度(FIT)の電気料金への影響② ~税抜き電気料金で見えてくる、日独の「本当の料金比較」なども参考にすると良いと思います。

簡単に言うと

ドイツ電力料金を2000年と2011年で比較すると
上昇率が最も大きいのは「再生可能エネルギー賦課金」
0.2セントから3.53セントへなんと約18倍に!!

上昇幅が最も大きいのは「発電・輸送・販売コスト」
8.62セントから13.57セントへと4.95セント上昇!!

つまり2011年までを考えれば、電力コストの上昇が家計へ打撃をあたえていたわけで、再生可能エネルギー賦課金よりもその額は大きいことになります。
忘れてはいけないのは付加価値税(19%)で、付加価値税(13.57*0.19)も含めると7.5セントが電力コストによる値上げと考えられます。ついでに再生可能エネルギー賦課金にも付加価値税はかかるので実質値上げ幅は4.2セントです。

私たち一般人が気にするのは「で、いったいいくら払えばええんや?」であって、そう考えると電力価格の上昇には電力コストの上昇(7.5セント)が一番効いている、ということになります。
再生可能エネルギー賦課金の影響は大きいですが、家計に打撃を与えているのは電力コストの上昇であると言えるかと思います。
つまり、再生エネルギー賦課金による負担が大きいというのは客観的に間違っているということです。
さて、電力コストの上昇は何が原因なのかといえば、色々あると思います。
再生可能エネルギーは実は発電コストを押し下げているので、値上がりは石油の価格が上がっているからだ!」というのは事実ですが、再生可能エネルギーの普及のためのバックアップ電源(古い石炭火力など)整備も必要なので実際には「すべて石油が悪い!」とうわけではありません。が、ここでは深く追求はしません。

Vattenfallからの手紙には何が書かれているのか

さて、長々と前置きを読んでいただきありがとうございました。
それでは、実際に電力会社は私たち電力ユーザーにどうやって値上げを告知するのか、一例をあげておきます。

我が家はVattenfallを利用しています。スウェーデン系の電力会社で原発にも投資しているともっぱら悪名高い発電会社です(苦笑)

さて、そのVattenfallから我が家に手紙が届きました。
中身を見ると2011年11月から2012年11月までの電気代の精算に関しての手紙です。

ちなみに、ドイツでは毎月検針することはなく、多分年に1回だと思います。
1年分の電気使用量を12等分して一ヶ月ごとの電気代を決め、1年毎に差額の精算をします。
我が家は毎月36ユーロの電気代を支払っていました。

2012年は我が家の電気代は410ユーロ程度で、実際に払ったのは36*12の396ユーロであり、差額の14ユーロを追加で支払うことになります。2013年は今年の実績を見て月37ユーロ支払うことになりました。

(ちなみにこのやり方では「夜間の安い電気を使う」とか全然できないと思います。このへんどうなっているのか?)

少し細かく見てみます。

我が家の電気使用量は1年で1475kWhでした。
税金以外の部分(電力コストや再生可能エネルギー賦課金など)   314.64ユーロ
電力税                              30.24ユーロ
付加価値税                            65.53ユーロ


合計                              410.41ユーロ

そして全部含めた単価が23.36Cent/kWhだったと記されています。
我が家はドイツでも物価の安いベルリンなので、電気代単価は全国平均より少し安いようですね。

もっと細かく見ると
電気代は以下の項目に分けられています。

電気税(Stromsteuer)              
売上税(付加価値税のこと、Umsatzsteuer)    
再生可能エネルギー賦課金(EEG-Umlage)
コンセッション料(Konzessionsabgabe)
送電託送費政令19条による賦課金(§19 StromNEV-Umlage)
コジェネ賦課金(KWK-Umlage)
託送費(Netzentgelt)
電力計保守費用(Messetellenbetrieb)
検針費用(Meesungsdienstleistung)
電力網使用料計算費用(Abrechnung der Netznutzung)
発電、売電費用(Strombeschaffung und Stromvertrib)

それぞれについての説明はまた機会があれば。訳語は適当で正確ではありません!!

電気代値上げするぞ!でもそれって再生可能エネルギーのせいだけじゃないよね?

さらに、この手紙には来年は電気代単価が26.88Cent/kWhに上がることが記されています。

値上げ幅は3.52Cent/kWhです。

上に挙げたグラフは2011年までのものですが、2012年の再生可能エネルギー賦課金は3.59セントでした。
それが2013年に5.28セントまで上がるので値上げされることになっています。値上げ幅は1.69セントです。
税金を足したとしても、再生可能エネルギー賦課金値上げ分が3.52セントになるとは思えません。
つまり、値上げは再生可能エネルギー賦課金だけではなく、他の項目も影響していることが分かります。
Vattenfallはこのあたりをきちんと説明していません。
日本のメディアでもドイツの電気料金の値上げは再生可能エネルギーのせいだという論調がありますが、これを見る限りそれだけとは言えないと思います。

その他にはどんなことが書かれているのか

以上、簡単にVattenfallによる値上げ告知をざっと紹介しました。いくつか疑問点がありますが、フェアに情報を提供していると思いました。

その他おもしろかった情報を少し紹介しておきます。

我が家も利用している「Tarif Berlin Kompakt Privatstrom」を利用する家庭の平均的な電力使用量は年2200kWhだそうです。これはドイツの平均と比べるとかなり低い数字だと思います。これを元に計算すると、一ヶ月あたりで6.45ユーロの値上げになります。
年間では78ユーロ弱。これを受け入れられるかは正直難しいところです。やっぱり月7ユーロの値上げは楽ではないと思います。でも、ドイツ人はこれで脱原発ができるなら仕方ないと思っている人が多数なようです。

Vattenfallによると、ドイツの平均的な家庭の電力使用量は

1人世帯      2050kWh
2人世帯      3440kWh
3人世帯      4050kWh
4人世帯      4940kWh

だそうです。日本とほぼ変わらないと思います。
これを見ると我が家の電気使用量はかなり少ないということになります。
理由はあまり頻繁に掃除洗濯をしないからではないかと推察されます。

見づらくてすいませんが、最後に電源構成についてのグラフを示します。電力が何を作って作られているのかということです。

title

おおざっぱに言うと、緑色が再生可能エネルギー、オレンジ色が化石燃料、灰色が原発になります。

ベルリンは左から2番目、だいたい25%が再生可能エネルギー、残りが化石燃料になります。

Vattenfall全体は右から2番目、39%が再生可能エネルギー、4.5%が原発、58%が化石燃料です。

ドイツ全体は1番右、21%が再生可能エネルギー、17.7%が原発、残りが化石燃料です。

これだけ見ればVattenfallは原発をあまり使っていないいい電力会社ということになってしまいます。
さらにいえば、ベルリンのみなさんは原発からの電力は使っていないことになります。少しホッとしました。

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